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第3回 孫武と孫氏の兵法(そんぶとそんしのへいほう)[ 2 of 2 ]

孫子の兵法の名言を理解してみる

孫子の兵法』が紀元前500年ごろに書かれた世界的に有名な戦略書であることは前回の記事で書きました。そしてそれは実に13篇にもおよぶ大作なのです。すべてを紹介することはできませんが、今回は、現代社会の経営者・組織長・リーダーなどが読んで参考になる部分をエッセンスでお届けします。

ちなみに、『孫子の兵法』というと『孫子という人の書いた兵法書』と思いますよね。あれ?孫武という人が書いたのでは?と気づく人もいるはずです。実はこの孫武という人の敬った呼び方が孫子です。したがって、孫子とは孫武の尊称です。

孫子こと孫武。伝承上の人物という説もあるが、その兵法は今も支持者が多い。
孫子こと孫武。伝承上の人物という説もあるが、その兵法は今も支持者が多い。


はじめは処女のごとく、のちには脱兎のごとし

これは戦争の仕方を説いています。戦争の序盤戦は、まるで処女のごとく何も知らない純朴なふりをして敵を油断させて欺け、そして、その後は脱兎すなわち駆け抜けるウサギのごとく一気に反転攻勢して叩きのめせ、と説いているのです。現代のビジネスに置き換えたらどうでしょうか。なんでもかんでも知ったかぶりをして目立つ仕事をするよりも、謙虚にまだまだ未熟ですというポーズをとっておきながら、ここぞというときに一気にまくし立てて顧客を説得して契約に持ち込んでしまうようなイメージでしょうか。まったくもってしたたかな戦略です。

疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなるは林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざることは山の如し

これはみなさん武田信玄の「風林火山」としてよくご存じですよね。実は戦国時代もしきりに『孫子の兵法』が愛読され、信玄のように実戦にも取り入れる武将がいました。江戸時代になっても教養として学ばれたくらいです。さて、これの意味ですが、行軍(軍隊を移動させること)は風のように速く進ませ、陣容は林のように静かに悠然と構え、攻撃するときは火のように凄まじい勢力で攻め、そして、山のように陣形を崩さないことが肝要であるということです。現代の仕事にも役に立つ名言ですが、これをそのまま実践できる人はそうそういないかもしれませんね。これができる時点で、相当できる人だと思います。

武田信玄も孫子の兵法をたしなんだ。
武田信玄孫子の兵法をたしなんだ。


兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり。察せざるべからず

これは孫子が兵法のわざわざ冒頭にもってきたとても有名な一説です。戦争は国家の一大事で、国民の生死、国家の存亡に直結するのだから細心の注意を払って慎重に慎重を重ねて検討すべきである、と説いています。興味深いことに、「兵法書」を書きながら戦争を勧めるのではなく、むしろ、戦争をできるだけ避けるように、トップは常に慎重たれと言っています。現代に置き換えても勝ち目のない博打的なビジネスには絶対に打って出るなという戒めに聞こえます。

実は、『孫子の兵法』は、先ほども触れたように兵法書なのにきわめて戦争に対して慎重であることを説いています。つまり、できるだけ戦争は避け、戦わずに勝つことを全編を通して唱えています。みなさんの身近に喧嘩っ早い人はいませんか?そういう人には「喧嘩するのもいいけど、今一度冷静に戦略をよくよく考えて、本当に勝てる喧嘩だけしてね」と言ってあげてください。相手はびっくりするでしょうね(笑)。

兵は勝つことを貴(たつと)び、久しきを貴ばず

これは、戦争の期間を戒めています。つまり短期決戦で勝つことはあっても、長期戦になると勝てないといいます。戦争は避けるほどよいが、仮に戦争に至ったとしても、短期決戦すべきだと警告しています。ビジネスでもだらだらと営業活動をしていてはいけません。短期決戦で決着をつけるよう持ち込み、ダメならそそくさと他のお客様に移るのも悪くないかもですね。

善く戦う者は勝ち易(やす)きに勝つ者なり。故に善く戦う者は勝つや、智名なし、勇攻なし

少し難解な漢文です。これは本当の名将とは、戦争する前に勝ちが決まっているような相手に勝つ者である。それがごく自然なことなので、名声もとどろかないし、賞賛もされないと説きます。これには少し説明が必要です。この「ごく自然なこと」とは、事前準備をしっかりして戦争に臨むリーダーこそ戦争に勝つべくして勝つ、だからそれがとても自然なことに見える、という意味があります。ノルウェーの探検家にアムンゼン(1872~1928)という人がいますが、彼は人類史上初めて南極点への到達に成功した人物です。その彼が「準備10年、成功5分」と言いました。要は準備の重要性を説いた言葉です。何かを成し遂げる人は準備の重要性をよく理解しています。

軍は高きを好みて下(ひく)きを悪(にく)み、陽を貴(たっと)びて陰を賤(いや)しむ。生を養いて実に処(お)り、軍に百疾なし

これは布陣、すなわち環境を指摘しています。「布陣するとき、低地を避け高地に、そして日当たりの良い場所を選び日陰を避ける。そうすれば健康管理に役立ち、病気にならない」と言っています。不動産物件選びのようで当たり前のことといえば当たり前ですが、会社経営・組織運営において、メンバーの環境を端々まで考えるのはなかなか骨の折れることです。いまの時代でいえばさしづめ「働き方改革」の「環境編」のような意味でしょう。

而(しか)るに爵禄百金愛(おし)みて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり

これは『孫子の兵法』の最終篇「13章:用間篇」に出てくることばです。用間とは、間者、つまりスパイを用いる戦略のことで、孫子は最終章で情報戦略がいかに重要であるかを力説しています。「金銭を惜しんで敵情を視察しない者はアホだ」と言っています。また同じ章で、情報戦略こそ戦略の要で、それが全軍の命運にかかると言っています。まさに現代の情報社会・ネット社会の神髄を言い得ているようです。



戦わない戦略、負けない戦略

孫子の兵法』の基底に一貫して流れているのは「戦わずして勝つ、戦ったとしても、負けないようにする、被害や投入コストを最小にする」という、戦わない、負けないということを終始一貫して教えています。つまり戦争することは最終手段で、ほんとうは戦争などせずして勝利を収めることが賢い戦略だということでしょう。戦略書の本質が、非好戦の勝利だという事なのです。

実はこのような論理は、旧ドイツプロイセンの将軍カール・フォン・クラウゼヴィッツが著した『戦争論』にも見られます。『戦争論』も『孫子の兵法』と並んで兵法書として世界的に有名で、むしろ欧米ではこれが戦略論のテキストにすらなります。この『戦争論』も「戦わずして勝つ、戦ったとしても、負けないようにする、被害や投入コストを最小にする」という理念は非常に似ています。

カール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780年~1831年)
カール・フォン・クラウゼヴィッツ1780年1831年



日本も1945年に敗戦してから70年以上、自ら戦争を起こしていません。戦後70数年いろんな経済危機や事件や災害がありましたが、それでも今でもそれなりに暮らせているのはやはりこの戦争が無かったことが大きいでしょう。孫子の非戦の戦略は今の時代にも十分に私たちに生き残る知恵を与えてくれます。現代の経営論や組織論にも応用できると考える人が多く、いまだに支持があるのでしょう。

今後とも引き続きよろしくお願いします。


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